宇都宮家庭裁判所 事件番号不詳 判決
被告人 入江清一
主文
被告人を懲役一年に処する。
本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、妻ヨシと共に宇都宮市雀宮町四七三番地において料理店「町の家」を経営していたものであるが、かねて女給として雇入れていたC子(昭和十五年七月二十日生)につき、適切な年齢確認の方法を尽さず、同女をして客のDに売春させようと考え、昭和三十三年四月四日頃右料理店帳場において同女に対し「この人は私の知つている人だし、こう言う人に好かれなくちや駄目だ」などと暗に売春をすすめるがごとく申し向けて同女を困惑させ、よつて同女をして同日夜右料理店三畳間において、不特定の相手方であるDを相手方として売春をなさしめ、もつて人を困惑させ満十八才に満たない児童に淫行をさせたものである。
(証拠)
右の事実は、
一、被告人の当公廷における供述
一、同人の検察官に対する昭和三十三年四月九日附及び同月十二日附各供述調書
一、同人の司法警察員に対する供述調書
一、C子の検察官に対する供述調書
一、同人の司法巡査に対する昭和三十三年四月十一日附供述調書
一、Dの検察官に対する供述調書
一、同人の司法警察員に対する供述調書
一、入江ヨシの検察官に対する供述調書
一、松原正雄の検察官に対する供述調書
一、C子の戸籍抄本
を綜合して認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為中児童福祉法違反の点は同法第三十四条第一項第六号第六十条第一項第三項に、売春防止法違反の点は同法第七条第一項に該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段刑法第十条により重い児童福祉法違反の罪の刑に従つて処断することとし、その所定刑中懲役刑を選択しその刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め、刑法第二十五条により本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
本件公訴事実中、被告人が情を知つて売春を行う場所を提供したとの事実について考察するに、売春防止法第十一条第一項の場所の提供罪の規定は、売春を助長するおそれある行為のうち、もつとも行われ易い場所の提供を処罰する規定であるが、これは場所の提供者が売春をなす者に対し能動的な関係にある場合、例えば自己の占有している場所に人を居住させ、これを因惑させ又は親族関係による影響力を利用し、或は脅迫又は暴行を加えて右居住場所で売春をさせた如き関係ある場合には適用なきものと解すべきである。かかる場合同法第七条の罪が成立することは勿論であるが、その際居住場所を売春を行う場所として事実上使用させることは右罪の売春をさせる態様の内に本質的に包含されているからである。されば本件のごとく自己占有の場所に女子を居住させ同女を困惑させて右居住場所で売春をさせた場合には、法第七条の罪のみ成立して、別に法第十一条第一項の罪は成立しないと解するので、この事実は罪とならず無罪であるが、右事実は判示児童福祉法違反の罪と科刑上一罪の関係にあるとして起訴されたと認められるから、特に主文において無罪の言渡をしない。
よつて主文の通り判決する。
(裁判官 小沢博)